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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)38号 判決

事実及び理由

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであること、第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの事項(但し、第二引用例につき空洞35、樋37が上部の左右に複数形成されているとの点を除く。)が記載されていること、本件考案と第一引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点が存すること、及び第二引用例記載のものの「屋根板」が本件考案の「面材」に相当することは、当事者間に争いがない。

二  取消事由に対する判断

1  取消事由(一)(請求の原因四1)について

(一)  第二引用例の記載事項の認定及び本件考案との対比判断について

(1) 成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、接続用止水板の構造及びその機能ないし作用について、「本考案に係る止水板10は前端に……屈曲片11を形成し、幅方向のほぼ中央に支持部12を長さ方向に設ける。該支持部12は止水板10の表面との間に相反する横方向に開口する受溝13、13を左右に形成するためである。又、止水板10には上記支持部と平行に浅い溝状案内部14……を複数設ける。この溝状案内部14は止水板10に形成した複数の隆出条により構成されている。」(本件公報第一頁第二欄第一四行ないし第二三行参照)、「左右に隣り合う面材1の端縁2を衝き合せた接続部分に止水板10を当てがう。止水板10は面材1の裏面に当てがつて……左右に並ぶ面材の各端縁2を各受溝13に挿着させるのである。」(同第一頁第二欄第三二行ないし第三七行参照)、「雨水が面材の接続部分から浸入したとしても、雨水の毛管現象が溝状案内部14……にまで達すると作用しなくなるので、雨水はそのまま溝状案内部14……を傾斜方向に流下することになり、天井面や壁面まで染み出すことがない。」(同第二頁第三欄第二六行ないし第三〇行参照)との記載があることが認められ、右記載によれば、本件考案の要旨中「支持部」とは、止水板の表面と相まつて、面材の端縁を挿入する横方向の開口部、すなわち、「受溝」を形成するところの、止水板から突出して形成された部分(別紙図面(四)の参考図(2)の破線内の部分)を、同じく「溝状案内部」とは、面材と支持部との接続部分から浸入した雨水を傾斜方向に流出させる機能を有するところの止水板に設けられた支持部に平行な複数の凹凸条を、また、同じく「接続用止水板」とは、右「支持部」、「受溝」、「溝条案内部」のほかその一端に設けられた「屈曲片」から構成される止水板の全体を指称するものと認められる。

右認定のとおり、「溝状案内部」は、止水板に設けられた凹凸条であつて、面材と支持部との接続部から浸入した雨水を受け入れ、これを傾斜方向に流下させるものであるから、面材と支持部の接続部分より内側にも設けられていなければ、換言すれば、受溝を構成する支持部の下部の止水板の表面(受溝の下側の面)にも設けられていなければ、右接続部分より浸入した雨水を浸入の時点で受け入れられないことは明らかであり、右時点で浸入雨水を受入れ可能な限り傾斜方向に流下させることにより所期の効果を達するのであつて、それでもなお流下せず支持部の外側へ向う雨水については、外側に設けられた凹凸条により流下されるのであるから、本件考案の要旨中「溝状案内部を支持部の左右に複数形成する」とある「左右」とは、厳密に支持部の両側端より外側の部分のみを指すものと解すべきではなく、支持部の下部の止水板の表面部に設けられた態様をも包含するものと解するのが相当である。原告は、この点について、支持部の両側端より外側の部分を指すと解すべきである旨主張するが、右主張は前記理由により採用することができない。

(2) 次に、第二引用例の記載及び本件考案との対応関係について検討すると、前示のとおり、第二引用例に本件審決認定のとおりの屋根連結具3が記載されていることは、当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)によれば、屋根板連結具3の構造及びその機能ないし作用について、更に詳細に、「屋根板連結具3は、第2図に示す如く、両側に開口せしめると共に、両開口部31、31の上部32と下部33とを側方へ延出せしめ、下部33には上部32に近接する様上方へ突出する押し上げ部34が形成されると共に、上記開口部31の内奥に空洞35が形成され、而して上記連結具3は、上部32と下部33の押し上げ部34とが互いに近接して弾性挟持力を有する構成であり、且又、上記連結具3は、上記下部33の両側部に上方へ突出する側壁36が形成され、下部33の両側部に樋37を有する構成である。」(同号証の明細書第二頁第二〇行ないし第三頁第一〇行)、「上記屋根板連結具3を用いて、屋根1を構成した場合該連結具3は、上部32が屋根板2を上から強く抑え付ける為、雨水の浸入を防ぐと共に上記屋根板2と上部32の管に生じる毛細管現象により雨水が浸入しても、上記開口部31の内奥に形成された空洞35において、上記毛細管現象を断ち、浸入した雨水を空洞35の下部に溜めて排出する事が出来、更に浸入した雨水が、上記連結具3の押し上げ部34と屋根板2との間に生じる毛細管現象によつて、押し上げ部34を越えて連結具3の側方に流れても、上記連結具3の両側部に形成された樋37により外部に排出する事ができる。」(同第四頁第一行ないし第一三行)との記載が存することが認められ、右記載によれば、第二引用例記載のものにおける「上部32」は、「下部33」と相まつて屋根板の端縁を挿入する横方向の開口部、すなわち、「開口部31」を形成するところの、側方へ延出せしめられた屋根板連結具3の突出部であり、「空洞35、樋37」は、いずれも「下部33」に設けられた凹部であつて、「空洞35」は、屋根板と上部32との間から毛細管現象によつて浸入した雨水を外部に排出するためのものであり、「樋37」は、空洞35から押し上げ部34を越えて更に浸入した雨水を外部に排出するためのもので、いずれも雨水案内部としての機能を有することが、また、「屋根板連結具」とは、右「上部32」、「開口部31」、「空洞35、樋37」からなる止水板全体を指称するものと認められる。

(3) そして、右(1)及び(2)の事実によれば、第二引用例記載のものの上部32、屋根板連結具3は、本件考案の支持部、接続用止水板にそれぞれ相当するものと認められる。また、本件考案の溝状案内部と第二引用例記載のものにおける「空洞35、樋37」については、前記のとおり、両者が雨水案内部としての機能を有することに変わるところなく、また、本件考案の溝状案内部が設けられる「左右」の位置が前記(1)のとおり、支持部の両側端より外側の部分のみを指すのではなく、支持部の下部の止水板の表面に設けられる態様をも包含するものと認められる以上、第二引用例記載のものにおける空洞35及び樋37が本願考案における支持部(上部)の左右に複数形成された溝状案内部に相当するものと認めることができる。そうであれば、第二引用例についてのこの点に関する審決の摘示に誤りはない。

(4) 原告は、本件審決の認定判断に係る第二引用例の記載及び本件考案と第二引用例記載のものとの対比関係を争う主張をするが、以上説示したところによれば、右主張は理由がなく採用できない。

(二)  本件考案の「溝状案内部」の奏する作用効果の認定判断について

(1) 前掲甲第二号証(本件公報)によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、「雨水が面材の接続部分から侵入したとしても、雨水はそのまま溝状案内部を傾斜方向に流下することになり、天井面や壁面にまで染み出すことがない」(同号証第二頁第三欄第二六行ないし第三〇行)との記載が存することが認められるところ、本件明細書の考案の詳細な説明の欄において、「接続」ないし「接続部分」という字句は、<1>「面材1を横方向に並べて各端縁2を衝き合せ、衝き合せにより構成される面材の接続部分に止水板10を装着し、」(第一頁第二欄第九行ないし第一一行)、<2>「左右に隣り合う面材1の端縁2を衝き合せた接続部分に止水板10を当てがう。」(同頁同欄第三二行ないし第三四行)、<3>「このように左右に並ぶ各面材1の端縁2を各受溝13に挿着したら、両面材1、1は止水板10により接続される」(第二頁第三欄第三行ないし第五行)、<4>「そして上方の面材の接続部分にも止水板10を当てがうのであるが、上下の接続部分は同じ位置でなく、位置をずらせるのが望ましく、又上方の面材の接続部分である止水板10の屈曲片11も下に位置する面材の受部3に係合させる。」(同頁同欄第一二行ないし第一六行)、<5>「雨水が面材の接続部分から侵入したとしても、雨水の毛細管現象が溝状案内部14……にまで達すると作用しなくなる。」(同頁第三欄第二六行ないし第二八行)、<6>「本案によれば支持部を有する止水板を面材の接続部分に装着し、支持部の左右の受溝に左右の面材の端縁を装着して面材相互を接続するようにしたものであるから」(同第四欄第一一行ないし第一三行)との記述中において使用されていることが認められる。

右事実によれば、雨水の浸入防止に関する「接続」又は「接続部分」という文言は、すべて面材の左右方向の接続部分の意味で用いられており、したがつて、前記「雨水が面材の接続部分から侵入したとしても」とは、雨水が面材の左右方向の接続部分から浸入したとしてもという趣旨であると解され、結局、本件考案における溝状案内部それ自体の奏する作用効果は、面材との横方向の接続部から手細管現象によつて浸入する雨水を下方に案内流下させ、右雨水が天井板や壁面にまで染み出すことを防止するという点にあるものと認められる。

(2) 他方、前掲甲第五号証(第二引用例)の第四頁第一行ないし第一三行によれば、前記のように、第二引用例記載のものの空洞35及び樋37は、前認定の本件考案の溝状案内部14と同様の作用効果を奏するものと認められる。

(3) そうだとすれば、本件審決が、第二引用例には、本件考案と同様の作用効果を奏することを目的として、面材の接続用止水板に溝状案内部を設ける点が記載されていると認定判断した点に誤りがあるとはいえない。

(4) 原告は、右の点について、本件考案は右の作用効果のほか、溝状案内部により浸入する雨水をガイドして係合部7から排水するので漏水を防止することができるという作用効果を奏するものであるから、本件審決が第二引用例記載のものの空洞35及び樋37は、本件考案の溝状案内部14と同様の作用効果を奏するものと認められると認定判断したのは誤りである旨主張するところ、前掲甲第二号証(本件公報)によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、原告主張のとおり、「本案によれば……溝状案内部より浸入する雨水をガイドして係合部7から排出するので確実に漏水を防止することができる」(第二頁第四欄第一〇行ないし第一六行参照)との記載が存することが認められるが、本件考案が面材の上下端の構造及び接続用止水板と右面材との上下方向(縦方向)の係合の態様を要旨とする考案でないことは、前示本件考案の要旨の項の記載からも明らかである。したがつて、原告主張の「漏水を防止することができる」という効果が、本件考案に係る接続用止水板と本件明細書の考案の詳細な説明及び図面に記載された一定の形状を有する面材との係合関係によつて生じるものであるとしても、その構成が本件考案の要旨とされていない以上、これによりもたらされる効果をもつて本件考案の奏する効果と解することはできないから、原告の右主張は、結局、本件考案の要旨に基づかない作用効果の主張であるといわざるを得ず、失当であり、採用することができない。

(三)  接続用止水板の溝状案内部(空洞35、樋37)の構成の考案の容易性について

(1) 前示第一引用例及び第二引用例の記載事項を対比すれば明らかなとおり、いずれも屋根板の接続部分から雨水が浸入して天井や壁面にまで染み出すことを防止するという目的を有する接続用止水板についての発明ないし考案であつて、前示第一引用例及び第二引用例の記載事項を対比すれば明らかなとおり、第一引用例記載のものが横葺き用面材の接続用止水板であるのに対し、第二引用例記載のものは縦葺き用面材の接続用止水板である点で相違するものの、その止水板自体の構造は、「溝状案内部」(空洞、樋)と止水板の一端に設けられた「屈曲片」の有無という点以外は同一の構成を有するものであるから、両者は、本件審決認定のとおり、その基本的な目的、構成が極めて類似しているものと認められるのであつて、第二引用例に記載された溝状案内部についての構成を第一引用例に記載された面材の接続用止水板に採択することは、格別考案力を要するものとは認められない。

(2) 原告は、第一引用例記載のものは、二枚の隣接する金属製屋根板の隣接端縁間の漏れを効果的に防止する点を目的の一つに挙げているのであつて、あえて第二引用例記載のものの「空洞35」と「樋37」に関する構成を採用する必要がない旨、更には、第一引用例記載の「屋根板35、36」を波形断面形状とすることなく、その「帯片23、31」だけを波形断面形状とし、あえて第二引用例記載のものの「空洞35」と「樋37」に関する構成を採用することは、第一引用例の右記載内容を無視した考え方であり、第一引用例の記載内容を尊重する限り採用することはできない旨主張するが、毛細管現象によつて生ずる面材と接続用止水板との間からの雨水の浸入をより効果的に防止するとともに、雨水が浸入した場合にこれを外部に適切に排出し、雨水が染み出すのを防止することのできるより良い接続用止水板を得ることを意図して、第一引用例に記載された構造のものに代えて第二引用例記載のものを採用することは、当業者が容易になし得る程度のことであると解されるから、原告の右主張は、いずれも採用することはできない。

2  取消事由(二)(同四2)について

(一)  前認定のとおり、本件考案の「溝状案内部」の奏する作用効果は、「雨水が面材の接続部分から浸入したとしても、雨水の毛細管現象が溝状案内部にまで達すると作用しなくなるので、雨水はそのまま溝状案内部を傾斜方向に流下することになり、天井面や壁面にまで染み出すことがない」という点にあるところ、前認定のとおり、右作用効果は第二引用例記載の「空洞35」と「樋37」の奏する作用効果と同様であるから、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとの組合せによる効果も、両者の効果の総和を越えるものと解することはできないのであつて、これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはない。

(二)  原告は、本件考案の奏する作用効果は「溝状案内部により浸入する雨水をガイドして係合部7から排出するので確実に漏水を防止することができる」という点にあり、右作用効果は、各引用例から右効果を予測することは困難であるから、本件審決の前記判断は誤りである旨主張するが、前認定のとおり、原告の右主張に係る作用効果は本件考案の奏する作用効果と解することはできないから、原告の右主張を採用することはできない。

3  そうだとすれば、本件考案は第一引用例及び第二引用例の記載事項から当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認めるのが相当であつて、本件審決に原告主張の誤りや違法の点はない。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

軸方向のほゞ中央に左右に並ぶ面材の端縁を挿着する横方向に開口した受溝を左右に形成する支持部を長さ方向に設け、該支持部に平行で雨水を傾斜方向に流下させる浅い溝状案内部を支持部の左右に複数形成するとともに、前端には面材の係合部内に嵌合する屈曲片を形成した横葺き用面材の接続用止水板。

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